東南アジアにおけるリマーケティング支出は前年比で193%増加し、ライフサイクル投資への構造的なシフトの始まりを示唆
2025年におけるAPACのAndroid金融アプリのIAP収益の39%はインドネシアが占有、インドが27%でそれに続く
2025年のAPAC金融カテゴリにおける不正率は22%で、前年からほぼ半減
金融領域はハイパーグロースから持続可能な価値へと転換
APAC地域は、世界的な貿易の不確実性がある中でも、2026年に4.7%の成長が見込まれており、デジタル経済拡大の中心的存在であり続けています。何百万ものユーザーにとって、スマートフォンは単なるコミュニケーションツールから、金融活動の中核を担う存在へと進化しており、2025年末までに総取引額3000億ドルを超えるデジタル経済を支えています。
しかし、「成長至上主義」の時代は終わりを迎えました。資本はもはや拡大市場全体に広く投下されるものではありません。より効率性の高いセグメント、プレミアムデバイス層、そしてライフサイクルの深度へと再配分されています。2025年前半における同地域のフィンテック投資額は約43億ドルにとどまり、数年ぶりの低水準となりました。これは投機的な拡大からの明確な転換を示しています。
この資本規律は、業界全体の構造的な成熟を促しています。確立されたプラットフォームはもはや見かけ上の指標では評価されず、新たな評価基準は収益性となっています。この変化はすでに東南アジアで顕在化しており、過去2年間でデジタル経済の利益は2.5倍に成長しています。これはシェア獲得重視からユニットエコノミクス重視への、地域全体のシフトを裏付けています。
マーケターにとって、成功の定義も再定義されています。現在は、予算がどれだけ効率的に使われているか、プラットフォームミックスの質、リテンションの深さ、そしてマネタイズの持続性によってパフォーマンスが評価されます。
本レポートでは、この戦略的転換が現場でどのように進行しているかを、データに基づいて明らかにします。アプリの利用動向分析を通じて、市場がどこで調整局面にあるのか、どこにハイパーグロースの機会が残っているのか、そして次の高価値ユーザーがどこから生まれているのかについての示唆を提供します。
*すべての結果は、完全に匿名かつ集計されたデータにもとづいています。統計的な妥当性を確保するため、厳格なボリューム閾値および手法に従い、これらの条件が満たされた場合にのみデータを提示しています。
金融アプリのインストール数は初めて減少、一方でiOSは過去最高の16%シェアを記録
2025年、APACにおける金融アプリのインストール数は前年比17%減少し、地域として初めて広範な調整局面を迎えました。一方でiOSは過去最高となる16%のシェアに達し、2024年から33%増加しています。
2025年において、iOSはAPAC全体の金融アプリインストールの16%を占め、過去最高のシェアを記録しました。同期間においてAndroidのインストール数は前年比で20%減少しています。全体のボリュームが縮小する中、インストールのより大きな割合がプレミアムデバイス層から生まれるようになっています。
この変化は経済的な意味合いを持ちます。金融アプリでは、iOSユーザーの方が一貫して高いアプリ内課金の強度とマネタイズの深さを示しています。獲得予算が引き締まる中で、インストールの配分はより収益性の高いセグメントへと集中しています。
地域別のパフォーマンスもこの傾向を裏付けています。インドは引き続きAPAC最大のボリューム市場であり、全体のインストールの40%以上を占めましたが、インストール数は前年比で22%減少しました。タイは40%、ベトナムは22%減少しており、金融アプリの普及が進んだ市場における成熟化を反映しています。
一方でパキスタンは61%成長しており、デジタル金融の導入がまだ初期段階にある市場の特徴を示しています。韓国は9%成長し、成熟市場の中で際立った存在となっています。韓国における成長は、新規ユーザーの流入ではなく、既存の金融インフラの中でのエンゲージメント拡大によるものです。
2025年のAPAC金融市場は、より引き締まった、そして焦点の絞られた支出判断によって特徴付けられています。プラットフォームミックス、デバイスの経済性、そしてマネタイズの強度が、今後どこで成長が続くのかを左右する主要な要因となっています。
全体のインストールトレンド(正規化)
プラットフォーム別インストールシェア
有料インストール率21%:インドネシアが上昇する一方でオーストラリアは低下
金融アプリ全体のインストール数が前年比で減少する中でも、有料キャンペーンによって獲得されたインストールの割合は、APAC各市場で大きく異なっています。成長市場では有料獲得が拡大する一方、成熟市場では予算引き締めの影響を受けて縮小しています。
インドネシアでは、2025年を通じて金融アプリにおける有料インストール率が最も明確に上昇した市場の一つとなりました。有料インストール率は年間を通じて着実に上昇し、第4四半期には約21%に達しており、2024年初頭と比較してほぼ倍増しています。ベトナムも同様の傾向を示しており、同期間に有料インストール率は12%から約21%へと上昇しました。
一方で、他の市場では比較的安定した動きが見られました。フィリピンでは年間を通じて大きな変動はなく、オーガニックと有料獲得のバランスが維持されています。
これに対して、成熟市場では逆の動きが見られます。オーストラリアでは有料インストール率が大きく低下し、2024年初頭の49%から2025年後半には約15%まで下落しました。これはAndroidにおける予算の引き締まりと、獲得効率重視へのシフトを反映しています。
カテゴリ別に見ると、この差はさらに顕著になります。インドネシアの投資系セグメントでは、有料インストールの割合が2024年第4四半期の22%から2025年第4四半期には45%へと上昇しており、前年比で2倍以上に拡大しています。これは、高いマネタイズポテンシャルを持つ市場において、引き続き拡大が進んでいることを示しています。
APAC全体で見ると、パターンは明確です。成長市場では引き続き有料獲得への投資が強化されている一方で、成熟市場では効率性とライフサイクルエンゲージメントがより重視されています。
有料インストール率(正規化)- 金融カテゴリ全体
UA広告費はAPAC全体で27%減少、Android予算の縮小が影響
2025年、APACの金融カテゴリにおけるユーザー獲得投資は大幅に縮小し、年間を通じて見られた資本規律の強まりを裏付けています。
分析対象となったAPAC市場全体では、UA広告費は前年比で約27%減少しました。インド亜大陸では最も大きな減少が見られ、38%の縮小となりましたが、これは主にインドにおけるAndroid広告費が43%減少したことによるものです。東南アジアでは27%の減少となり、Androidは25%減少、iOSは48%減少しました。
一方で、日本および韓国では全体として3%の緩やかな成長が見られ、より安定した獲得環境が反映されています。オーストラリアでは前年比16%の増加となりましたが、これはiOSが86%成長したことによるものであり、Androidは32%減少していることから、全体的な拡大というよりも明確なプラットフォームシフトが起きていることを示しています。
市場ごとに見ると、この縮小は均一ではありませんでした。インドは42%減少、ベトナムは48%減少、タイは55%減少しており、大規模市場における予算圧縮が広範囲で進んでいることが確認されます。一方で、パキスタンやバングラデシュでは拡大が見られ、比較的小規模な予算基盤を持つ成長初期市場の特徴が表れています。
全体として、縮小の影響はAndroidを中心とした大規模市場で特に顕著であり、iOSおよび成熟市場は比較的高い耐性を示しています。
UA広告費の前年比変化率(2025年 vs 2024年)
2025年におけるプラットフォーム別のUA広告費(USD)
東南アジアのAndroid向けUA広告費の47%は中国系アプリが占有
2025年、APACの金融カテゴリにおいてUA予算が引き締まる中、広告支出は均等に分散されるのではなく、より少数の市場に集中する傾向が見られました。
東南アジアでは、中国系アプリがAndroid向けUA広告費の47%を占めており、2024年の38%から増加しています。東南アジア全体の広告費が27%減少する中でも、その構成比は拡大しており、限られた予算の多くが特定の主要プレイヤーに集中していることを示しています。この支出の多くはインドネシアおよびフィリピンに向けられており、中国系アプリがサブリージョン内で構造的な影響力を持っていることを裏付けています。
同様のパターンはANZでも見られました。2025年には、英国発のアプリがAndroidの流入広告費の41%、iOSの流入広告費の47%を占めています。地域全体で広告費が縮小する中でも、英国発の予算は前年比で増加しており、ANZにおける主要な外部流入ドライバーとしての地位を強固にしています。
一方で、インド亜大陸では異なる構造が見られます。Androidの広告費は圧倒的に国内に集中しており、サブリージョン内の支出の92%をインドが占めています。これに対してiOSの投資はより分散しており、中国、イスラエル、ロシア、英国など複数の国にまたがっていますが、特定の外部プレイヤーが支配的な影響力を持つ状況にはなっていません。
中国発のAndroid向け広告予算は東南アジアに強く集中しており、インドへの配分は限定的でした。これは全方位的な展開ではなく、ターゲットを絞った集中戦略であることを示しています。
中国系アプリにおける金融アプリUA広告費シェアの前年比変化率
流入元市場別のUA広告費(2025年)
東南アジアのリマーケティング支出は193%増加、ライフサイクル投資が加速
2025年、APACの金融カテゴリにおいてユーザー獲得予算が縮小する一方で、特定市場ではリマーケティング投資が加速しており、ユーザー成長からエンゲージメントの深度へと支出の重心が移行しつつある初期段階ながらも重要な変化が見られます。依然として全体ではUA予算がリマーケティングを大きく上回っていますが、その差は縮小しています。
東南アジアでは最も強い拡大が確認されました。リマーケティング支出は前年比で193%増加しており、Androidで202%、iOSで84%の増加が牽引しています。国別では、インドネシアが144%、タイが339%、フィリピンが241%、ベトナムが161%の成長となりました。これらの伸びの規模と広がりは、短期的な最適化ではなく、構造的な優先順位の転換が起きていることを示しています。
日本および韓国はより安定した推移を示しました。リマーケティング支出は全体で74%増加しており、韓国は85%、日本は56%の成長となっています。これは成熟市場においてライフサイクル投資が継続的に強化されていることを反映しています。
一方で、インド亜大陸は異なる動きを示しました。リマーケティング支出全体は8%減少しており、主要プラットフォームであるAndroidが9%減少したことが影響しています。iOSのリマーケティングは101%増加したものの、もともとの規模が小さいため、地域全体への影響は限定的にとどまりました。
ユーザー獲得とは異なり、リマーケティングは越境的なハブによってではなく、主に国内市場を起点として展開されています。東南アジアでは、Androidのリマーケティング支出はインドネシア(30%)、タイ(28%)、フィリピン(22%)に集中しており、ライフサイクル投資が海外資本の流入ではなく、市場規模に応じて配分されていることが示されています。
2025年におけるプラットフォーム別のリマーケティング広告費(USD)
国別リマーケティングコンバージョントレンド(正規化)
日本・韓国がDay30リテンションを牽引、東南アジアが追随
2025年、APACの複数の金融市場においてリテンションは改善しており、資本制約が強まる環境下でエンゲージメントの深度が重要なパフォーマンス指標として高まっていることが示されています。
東南アジアでは着実な改善が見られました。AndroidのDay30リテンションは2024年第1四半期の2.35%から2025年第4四半期には3.86%へと上昇し、iOSも同期間で5.50%から8.87%へと増加しています。市場別では、インドネシアが1.92%から3.37%、タイが1.97%から3.05%、ベトナムが1.75%から4.23%、フィリピンが0.98%から2.95%へとそれぞれ改善しました。
インドでも安定した改善が確認されています。AndroidのDay30リテンションは2024年第1四半期の2.48%から2025年第4四半期には4.36%へと上昇し、iOSは6.29%から9.65%へと増加しました。この改善は、この改善は、単なる初回利用にとどまらず、継続的な金融管理行動へと利用が拡張している成熟した金融アプリエコシステムにおけるエンゲージメントの深化を反映しています。
北東アジアでは、より緩やかではあるものの安定した改善が見られました。日本および韓国におけるAndroidのDay30リテンションは、2024年第1四半期の6.72%から2025年第4四半期には7.24%の範囲で推移し、期間を通じておおよそ7%前後で安定しています。これはAPACのすべてのサブリージョンの中で最も高い水準であり、金融アプリの利用がすでに習慣化している市場においては、成長が新規導入ではなく改善・最適化によってもたらされていることを示しています。
インストール主導の成長が鈍化する中で、リテンションは2026年に向けたパフォーマンスの持続性を測る中核指標となりつつあります。、
セッショントレンド:金融カテゴリ全体(正規化)
平均リテンショントレンド:金融カテゴリ全体(サブリージョン別)
APACのAndroid金融アプリIAP収益の39%はインドネシアが占有
2025年のアプリ内課金(IAP)収益の動向は、APACの金融市場において集中と地理的な広がりの両方が見られる結果となりました。少数の国がプラットフォームレベルのマネタイズを牽引する一方で、収益は地域全体に広く分散しています。
APAC内では、AndroidのIAP収益の39%をインドネシアが占め、インドが27%、韓国が14%でそれに続きます。グローバルで見ると、インドネシアはAndroidの金融アプリIAP収益全体の12%を占めており、インドおよび米国の各8%を上回っています。ブラジルは7%を占めており、大規模な新興市場におけるAndroidのマネタイズの強さを裏付けています。
iOSでも同様の傾向が見られます。APAC内ではインドネシアが33%で首位となり、韓国は18%とAndroidよりも高い割合を示しており、プレミアムデバイスにおけるマネタイズ強度の高さが示唆されています。
インドネシアとインドは引き続きAPACにおけるデュアルプラットフォームの中核市場である一方で、両国のグローバルにおける収益シェアは、両プラットフォームにおいて前年比で17%〜19%低下しています。この変化は収益の減少ではなく、他市場における収益成長の加速を反映しています。
韓国は地域内で最も高い成長を記録しており、金融アプリのIAP収益はAndroidで52%、iOSで63%増加しました。この伸びにより、従来の主要市場との差は縮まりつつあり、プレミアムデバイス市場におけるマネタイズの深化が進んでいることが示されています。
収益は依然として広く分散しています。グローバルの金融アプリIAP収益の約40%は主要国以外から生み出されており、APACおよびそれ以外の地域におけるマネタイズの地理的多様性を示しています。
スケール主導の成長が鈍化する中で、2026年に向けてはインストール数ではなく、マネタイズの深度がパフォーマンスを規定する重要な指標となりつつあります。
IAP収益シェアの前年比変化率
国別アプリ内課金収益シェア
不正率は22%低下、トラフィック品質の改善が進展
2025年、APACの金融カテゴリにおけるインストール不正は大きく減少しました。地域平均の不正率は2024年の41%から2025年には22%へと低下しており、不正検知フレームワークの強化と、より高品質なトラフィックソースへのシフトが進んだことを反映しています。ただし、依然としてインストールの5件に1件以上が不正と判定されており、引き続き高い警戒が必要です。
この改善は、これまで不正リスクが高かったカテゴリにおいて特に顕著でした。投資系の不正率は26%から8%へと低下し、2025年における金融カテゴリの中で最も低い水準となりました。個人ローンも31%から14%へと改善しました。一方でモバイルバンキングは29%と依然として最もリスクの高いカテゴリであり、前年からは低下しているものの、引き続き注意が必要です。
プラットフォーム間の差も縮小しています。iOSの平均不正率は21%、Androidは20%となっており、過去に見られたようなプラットフォームごとの大きな乖離は解消されつつあります。
市場別に見ると、結果にはばらつきが見られます。タイと韓国はそれぞれ3%と低い不正率を記録しており、地域内でも最もリスクの低い市場となっています。フィリピンは9%、インドは11%と、継続的な品質改善が確認されています。
一方で、特定市場では依然として高い不正リスクが残っています。ベトナムは46%、バングラデシュは35%を記録しており、さらにオーストラリアおよびANZも地域平均を大きく上回る水準にあります。不正は大幅に抑制されましたが、完全に解消されたわけではなく、2026年に向けても特定の市場およびカテゴリにリスクが集中しています。
不正率 – 金融カテゴリ全体
不正率 – 投資系
不正率 – モバイルバンキング
不正率 – 個人ローン
モバイルバンキングにおけるアプリ内イベント関連クエリは12%に到達
AppsFlyerのAI Assistantに金融マーケターから提出された2,000件以上の質問を分析した結果、AIは主にパフォーマンスの解釈に活用されており、特にアトリビューションが主要なユースケースとなっていることが明らかになりました。
個人ローンはアトリビューションに関するクエリの割合が20.7%と最も高く、モバイルバンキングのほぼ2倍となっています。ローン分野ではコンバージョンまでの期間が長く、顧客獲得コスト(CAC)も高い傾向にあるため、どの流入元が実際にインストールやその後の行動に寄与したのかを把握する必要性が高まっています。
利用パターンはカテゴリごとに異なります。モバイルバンキングはアプリ内イベントに関する質問の割合が最も高く(12.2%)、オンボーディングプロセスが重要なファネルにおいて、初期のパフォーマンスを左右するアクティベーション指標への関心が高いことを示しています。一方で投資系アプリは、より観察的な利用傾向を示しており、チャート要約に関するクエリの割合が最も高く(9.4%)、メディアソースに関する質問の割合は最も低い(24.8%)結果となりました。これは、獲得チャネルの調整よりもダッシュボードの解釈に重きを置いていることを示唆しています。
プロンプトの傾向からは、もう一つのパターンが見えてきます。アトリビューション関連のクエリは、すべての金融サブカテゴリにおいて高度なプロンプトの割合が最も高く(34〜40%)、分析の重要度が高い場面ほど、マーケターがより多くのコンテキストをAIに提供していることを示しています。同様の傾向はチャネル分析にも見られ、個人ローンではメディアソースに関する高度なプロンプトの割合が32%と、モバイルバンキングの14%を大きく上回っています。
これらの結果から、金融マーケターは複雑なパフォーマンスシグナルの解釈において、AIへの依存度を高めていることがわかります。また、意思決定が獲得予算に直接影響する場面では、より高度なプロンプトが使用される傾向が見られます。
金融マーケターにおけるAI Assistantクエリの種類別内訳*
高度なプロンプトが使用されたクエリの割合
高いデジタルエンゲージメントにもかかわらず、オムニチャネルの分断は依然として存在
モバイルアプリは、APACおよびグローバルにおいて、銀行利用の主要な接点となっています。Accentureの「Global Banking Consumer Study 2025」によると、顧客は年間平均150回アプリを利用しており、これはサービスチャネルの中で最も高い利用頻度です。また、モバイルアプリは満足度も最も高く60%を記録しており、日常的な金融活動における中心的な役割を裏付けています。
しかし、このエンゲージメントの深さは、顧客体験のすべての段階において均一に発揮されているわけではありません。多くの利用は依然としてトランザクション中心にとどまっています。残高確認は週次アクティビティの45%を占め、送金は31%を占めています。一方で、ローン申請、紛争対応、サポートのエスカレーションといったより複雑なニーズに進むと、チャネル間の連続性は弱まる傾向にあります。
Accentureの調査は、認識のギャップも浮き彫りにしています。銀行のサービス部門の経営層のうち、顧客サービスを価値創出のドライバーと捉えているのはわずか21%にとどまっています。また、別の業界横断のカスタマーサービス調査では、過去5年間でサービス品質が向上したと感じている消費者は32%にとどまり、テクノロジーが全体的な体験を向上させたと感じている人はわずか18%でした。
これらの結果は構造的な課題を示しています。デジタル上のエンゲージメントは高いものの、オムニチャネルにおける体験の一貫性は依然として不均一であり、特に摩擦が大きい、あるいは価値の高いインタラクションにおいてその傾向が顕著です。この点においてディープリンクは重要な役割を果たします。各接点をシームレスに接続し、ユーザーがどのチャネルから開始した場合でも適切な画面へ遷移させることが可能になります。金融機関がデジタル投資をさらに強化する中で、アプリ、Web、有料チャネル、そしてオフライン接点を横断したシームレスな連携は、引き続き重要な改善領域となっています。
Accentureデータ:チャネル利用および満足度
- 多くの金融ブランドが、顧客獲得単価(CPA)から、アクティベーション、エンゲージメント、そしてLTV(顧客生涯価値)へと焦点を移しつつあります。グローバルの視点から見て、高品質な成長を示すシグナルにはどのようなものがあり、プラットフォームはそれらの最適化をどのように支援すべきでしょうか?
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マクロ環境が厳しい状況では、ボリュームは見かけ上の指標に過ぎません。本質は価値です。金融業界は過密状態にあり、平均的な顧客は5つ以上の金融サービスを併用しています。重要なのは顧客数を増やすことではなく、既存顧客からより多くの価値を引き出すことです。高品質な成長は「プロダクト密度(Product Density)」、すなわち「ウォレットシェア(Share of Wallet)」の代理指標によって測られます。例えば、住宅ローンのリードを資産運用の関係へと発展させられるか、といった点です。まずは単純なCPAではなく、価値指標に注目することが重要です。
- 変化の方向性:現在、グローバルではバリューベース入札(Value-Based Bidding:VBB)へのシフトが進んでいます。Think with Googleのe-Conomyに関する調査によると、上位30%の支出者がデジタル支出全体の70%を占めており、こうした関係性をいかに獲得するかが重要になります。
- 事例:Zoe Financialは、単なる申込数ではなく、各リードの価値に基づいて入札最適化を行いました。CRM上で「理想的な顧客」を定義し、そのシグナルをキャンペーンにフィードバックすることで、最も価値の高い顧客セグメントの売上比率を全体の60%まで引き上げています。
- 戦略的示唆:「総リード数」でのレポーティングはやめ、「創出された価値」でレポーティングを行うべきです。真の利益はそこに隠れています。
- 金融サービスにおける顧客ジャーニーは、Web、アプリ、有料チャネル、自社チャネルにまたがるものとなっています。これらの環境でデータが分断され、顧客ジャーニーが複雑化する中で、マーケターはどのように個別チャネルの指標を超えてパフォーマンスを評価し、真のビジネスインパクトを最適化すべきでしょうか?
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データがサイロ化している場合、すでに成長の限界に達している可能性があります。個別チャネルの最適化はやめ、「マルチモーダルな顧客」の最適化へとシフトする必要があります。現代の消費者は「自社チャネル」や「有料チャネル」といった枠の中で行動しているわけではありません。高い購買意欲を持つ検索、没入型動画、銀行アプリ、商品サイトを、時には一つの意思決定プロセスの中で行き来しています。チャネル単位の指標では、この動きを捉えることはできません。重要なのは「この広告はどうだったか」ではなく、「この顧客は今どの段階にいて、次に取るべき最適なアクションは何か」という問いです。
これに答えるためには、あらゆるタッチポイントのシグナルを接続する統合データ基盤が必要です。単なるCRMにとどまらず、ファネル全体を横断してデータを統合する必要があります。Think with Googleのデジタルトランスフォーメーション・プレイブックでも示されている通り、重要なのはファーストパーティデータと外部エコシステムをつなぐことです。これにより、あらゆるタッチポイントからのシグナルが可視化され、相互に連携し、実際のアクションに活用できるようになります。
- 事例:Agicapは「広く網を張る」アプローチから脱却し、HubSpotのCRMデータをGoogle Adsに直接連携することで、チャネルごとのボリューム最適化から「見込み顧客のライフサイクル」に基づく入札へと転換しました。その結果、高い意図を持つリードに対して、適切なタイミングで育成を行うことが可能になりました。
- アーキテクチャ:BigQueryのような集中型データウェアハウスにより、ファネル全体のシグナルを取り込むことで、Performance MaxのようなAIが、ユーザーがスクロール中であれ、動画視聴中であれ、検索中であれ、次の顧客を見つけ出すことが可能になります。
- 金融サービスにおいては信頼が極めて重要であり、メッセージの関連性はコンプライアンスやブランドの一貫性と両立する必要があります。先進的なブランドは、どのようにAIや自動化を活用して、各環境において文脈に即したメッセージングを実現しつつ、一貫性や顧客の信頼を損なわないようにしているのでしょうか?
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金融において、信頼こそがプロダクトそのものです。ブランドは単なる広告ではなく、「信頼を移転する仕組み」です。金融サービス業界(FSI)において、信頼は最も重要な変数です。マクロ環境が不安定な時期には、消費者は最も安い選択肢ではなく、安心感を求めます。先進的なブランドは、自社のブランド価値が「将来の需要」を生み出し、「需要の上限」を押し上げる役割を果たしていることを理解しています。
- バランスの取り方:GoogleとWARCによるブランド価値に関するホワイトペーパーによると、消費者の意思決定の95%は感情的なつながりによって左右されます。銀行において、その感情的なつながりこそが信頼です。
- スケールにおける一貫性:モバイルでパーソナライズされた資産運用の提案を受けたにもかかわらず、店舗での体験と一致しない場合、信頼は損なわれます。先進的なブランドはAIを活用し、70以上のチャネル環境においても文脈に即したメッセージングの一貫性を保ちながら、「人らしさ」を失わないコミュニケーションを実現しています。
- インサイト:信頼とパフォーマンスはトレードオフではありません。ブランドへの関心と信頼を生み出す広告は、統計的にも短期的な売上につながりやすいことが示されています。ブランドを「信頼のバランスシート」と捉えると、インサイトに基づいた安全で適切な顧客体験の一つひとつが、そこへの“預け入れ”となります。
- AIはキャンペーン最適化、ターゲティング、クリエイティブ最適化などにおいてますます活用されています。金融サービスのような規制の厳しい業界において、マーケティングチームはAIを責任ある形で活用するために、どのようなガバナンスやコンプライアンスの体制を整えるべきでしょうか。また、そのプロセスの中でどのように消費者の信頼を構築すべきでしょうか?
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金融サービス業界においては、セキュリティは単なる機能ではなく、責任ある成長を支える基盤そのものです。規制の厳しい環境においては、「データが安全であること」がイノベーションの前提条件となります。責任あるAIの基盤なしに、意味のある成長を実現することはできません。これは単なるプライバシーの問題にとどまらず、「説明可能性(Explainability)」、すなわちAIがなぜその判断を下したのかを規制当局に説明できる能力が求められるということです。
Googleの責任あるAI原則(安全性、セキュリティ、公平性、説明責任)は、この文脈において重要な指針となります。
- セキュリティ・バイ・デザイン:Data Clean RoomやConfidential Computingのような技術を活用することで、機密性の高い個人情報(PII)を外部に露出させることなく処理することが可能になります。
- 責任あるAIの「3つのR」:3Rフレームワーク(Regulation、Reputation、Realization)を実装することが重要です。EU AI Actのような規制への対応は単に罰則を回避するためではなく、公平性に対するブランドの信頼を維持するためでもあります。
- 実務的な次のステップ:AIパイプラインにおけるバイアスを監査してください。モデルの学習データに偏りがある場合、そのアウトプットも同様に歪んでしまいます。高精度でクリーンなデータこそが、規制当局に承認されるAI基盤を構築するための唯一の手段です。
- マーケティング、プロダクト、データの各機能がより密接に連携する中で、高いパフォーマンスを発揮する金融マーケティングチームのオペレーティングモデルは、今後数年でどのように進化していくと考えられますか。特に計測、予算配分、AIを活用した意思決定の観点で教えてください。
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「クリエイティブ」と「クラウド」の間にあった壁はすでに崩れています。マーケティングチームがデータチームと連携できていない場合、その時点で競争に遅れています。高いパフォーマンスを発揮する金融サービス業界(FSI)のチームは、「統合されたインテリジェンス基盤」へと進化しています。IT、プロダクト、マーケティングの境界は曖昧になりつつあります。この新しい環境において最も価値が高いのは、データアーキテクチャとクリエイティブの両方を理解できる「ジェネラリスト」です。
- CMOとCFOの連携:高いパフォーマンスを発揮するチームでは、CMOとCFOが密接に連携し、マーケティング単独の指標ではなく、CLV(顧客生涯価値)のような共通KPIを基に意思決定を行っています。
- 「オーケストレーター」モデル:固定的な予算配分から、需要に応じた柔軟な予算運用へと移行しています。AIエージェントが日常的なキャンペーン設定などの定型業務を担う一方で、マーケティングチームは「ムーンショット」的な戦略やクリエイティブの差別化に集中しています。
- 進化の方向性:計測はMMMで補正されたアトリビューション(Meridianモデルのような手法)へと移行し、経営層全体で合意できる単一の指標基盤が構築されていきます。今後は「広告枠を買う」チームではなく、「ビジネス成果をオーケストレーションする」チームが競争優位を握るようになります。
APACの金融市場は2025年にハイパーグロースのフェーズを終えました。インストール数は前年比で17%減少し、主要地域におけるUA予算は縮小、資本配分はより選別的になっています。成長はもはや地域全体でのスケール拡大ではなく、配分効率、プラットフォーム選定、重点市場(コリドー)の優先順位付けによって定義されるようになっています。
全体のインストールボリュームが減少する中で、プレミアムデバイス層のシェアは過去最高となる16%に達しました。市場が縮小する中でもiOSの重要性は高まり続けており、プラットフォームミックスがパフォーマンス向上の重要なレバーであることが改めて示されています。韓国やインドネシアといった市場では、プレミアムデバイスにおけるマネタイズ強度が依然として高い水準にあります。
UAが縮小する一方で、リマーケティング支出は東南アジアで193%、日本および韓国で74%増加しました。東南アジアではAndroidのDay30リテンションが2.35%から3.86%へと上昇し、日本および韓国ではAPAC内で最も高い約7%の水準(6.72%〜7.24%)を維持しています。ライフサイクル投資を強化した市場では、インストール後のエンゲージメントがより高い成果として表れています。