マルチタッチアトリビューション:成功という名の「旅」を
見込み客とブランドとのタッチポイントは、コンバージョンや販売に至るまでに5~50回あるといわれています。 現代の消費者はさまざまなチャネルやデバイスを利用し、オンラインとオフラインを常に行き来するため、タッチポイントが非常に多く、ジャーニーのマッピングがかつてないほど複雑になっています。
コンバージョンに至るこの複雑な経路を把握するのは至難の業で、マーケターにとってアトリビューションの分析はもはや悩みの種です。実際、2021年のeMarketerの調査では、クロスデバイスアトリビューション(英語記事)がメディア関係者にとって2番目に大きな課題(42%)にあげられています。
マーケターは、最大のパフォーマンスをもたらすタッチポイントとジャーニーを把握し、十分な情報にもとづいて予算を配分すべきですが、どうすればそれが可能になるのでしょうか。
マルチタッチアトリビューション(MTA)の登場
MTAでは、タッチポイントに影響力に応じてクレジットを配分します。実に理にかなっているといえます。では、なぜMTAは長い間マーケターを悩ませ続け、導入率も比較的低いままなのでしょうか。
本稿では、このような質問に答えるとともに、さまざまなマルチタッチアトリビューションモデルを紹介しつつ、それらのメリットと限界について検討します。また、マルチタッチから獲得したインサイトをマーケティング戦略の策定に役立てる方法や、ビジネスに適したモデルの選び方についても解説します。
では、さっそく見ていきましょう。
本稿のトピック:
- マルチタッチアトリビューションとは
- シングルタッチアトリビューションとマルチタッチアトリビューション
- マルチタッチアトリビューションのメリット
- 業界標準とゴールドスタンダード
- マルチタッチアトリビューションモデルの解説
- ビジネスに最適なモデルの選び方
- ホリスティックアトリビューション
- マルチタッチアトリビューションを実装するための5つのステップ
- マルチタッチアトリビューションの課題
マルチタッチアトリビューションとは
マルチタッチアトリビューションとはマーケティング計測手法の1つで、カスタマージャーニーにおけるオンラインとオフラインの複数のタッチポイントを考慮し、ビジネスごとにさまざまなロジックにもとづいて各タッチポイントにクレジットを配分します。
オフラインのタッチポイントには、テレビ(スマートテレビを除く)、ラジオ、印刷物(看板、クーポン、ダイレクトメールなど)、店頭、コールセンター、営業電話などが含まれます。
オンラインのタッチポイントは、デジタル属性の有料メディア、オウンドメディア、アーンドメディアに分けられます。
有料メディアには検索、ディスプレイ、ソーシャルなどが含まれ、オウンドメディアにはウェブサイト、メール、デモ、コンテンツマーケティング(ブログなど)、ブランドのソーシャルメディアアカウントなどが含まれます。サードパーティのソーシャルメディアやブログでの言及は、報道と同じようにアーンドメディアに含まれます。
マルチタッチアトリビューションでは、使用するモデルによって、タッチポイントを均等または不均等に重み付けを行います(詳細は後述します)。
シングルタッチアトリビューションとマルチタッチアトリビューション
シングルタッチは、ファーストタッチとラストタッチのいずれかのアトリビューションを指します。
ファーストタッチでは、カスタマージャーニーにおけるブランドとの最初の接点に全クレジットを割り当てます。一方ラストタッチでは、最後のタッチポイントに全クレジットを付加します。
もちろん、どちらのアトリビューションもユーザージャーニー全体をカバーするものではありませんが、マーケターにとってそれなりにメリットがあります。
ファーストタッチ(ブランディング向け)
ブランドを世に出し、ファネルの上層を広げることに重点を置くのであれば、ファーストタッチアトリビューションモデルでも問題ありません。実装が比較的簡単で、顧客がブランドを知ったきっかけについてインサイトを得られるからです。
ラストタッチ(コンバージョン向け)
反対に、ラストタッチアトリビューションでは、ファネルの下層に目を向け、ユーザーのコンバージョンに寄与した要素に注目します。この要素を知ることがパフォーマンスマーケティングの本質ではあります。
マルチタッチ(全体像を把握)
マルチタッチでは、より全体的な視点でファネル全体をカバーし、ユーザージャーニー全体からインサイトを引き出します。もう少し詳しく見ていきましょう。
マルチタッチアトリビューションのメリット
もうおわかりのように、ファーストタッチアトリビューションもラストタッチアトリビューションも、近年のコンシューマージャーニーの現状(平均5~20回のタッチポイントがあること)を無視しています。だからこそ、マルチタッチアトリビューションが重要なのです。より高度なアプローチでジャーニーをマッピングすることで、ほかにもさまざまなメリットを得られます。
マルチタッチアトリビューションで複雑なカスタマージャーニーに対応できる
冒頭で、複数のデバイス、チャネル、タッチポイントによってカスタマージャーニーが複雑化していると述べました。MTAでは、実際のユーザージャーニーをより正確に反映させ、このような複雑さを克服できます。
現実を正確に把握すればするほど、どのような場所に影響力があり、タッチポイントをどのように組み合わるのがベストなのか理解を深めることができます。
ユーザージャーニーの全体像とそれに伴うタッチポイントを正確に把握することで、メッセージを適切にカスタマイズし、適切なチャネルで適切なタイミングで消費者にリーチできるようになるでしょう。
マルチタッチアトリビューションでバイアスを排除できる
ユーザージャーニーの長さと幅に合わせてクレジットを配分するということは、最初と最後のタッチポイントを必要以上に重視しないということです。コンバージョンに至る経路にはタッチポイントが点在しており、それらの影響力の裏付けとなるデータを利用してクレジットを配分します。
たとえば、Facebookで貴社の有料広告を見たある消費者が、Googleで貴社のブランドを検索したとします。あなたがニュースサイトでリマーケティングを行ったところ、その消費者はGoogleに戻って特定の製品を検索し、購入にいたりました。
この場合、有料のタッチポイント(最初のタッチポイント)が検索(最後のタッチポイント)よりも価値が高いのかというと、それはわかりません。逆もまた然りです。そこでMTAモデルでは、このような問題を避けるために各チャネルに公正に配分します。
マルチタッチアトリビューションで俊敏性を強化できる
マルチタッチでは、すべてのデータが1つのモデルにまとめられるため、タッチポイントの価値を特定しようとレポート間を行き来する必要はありません。俊敏性が高まることで、得られたインサイトをもとに戦略を軌道修正できます。
たとえば、マーケティング予算の大部分をファネル下層のプロモーションに充て、メールキャンペーンを実施していたとします。しかし、MTAモデルによると、見込み客をモバイルサイトに誘導し購入を促すうえで、ファネル上層に向けたソーシャルメディアキャンペーンが大いに役立つことがわかりました。
このようなインサイトから、ソーシャルメディアキャンペーンにコンバージョンを高める効果があることを確認したあなたは、戦略を見直し、ソーシャルメディアチャネルに集中的に予算を投入して、メールキャンペーンを縮小した結果、投資利益率(ROI)を最大限に高めることができました。
マルチタッチアトリビューションでマーケティング予算の膨らみを抑えられる
カスタマージャーニーの理解を誤ると、どのタッチポイントの組み合わせが最大のROIをもたらすのか(または、パフォーマンスが低いのか。これも同じように重要です)わからなくなってしまいます。
マルチタッチアトリビューションで得られるインサイトにより、成果の出ていないチャネルへのマーケティング予算を削減し、その分を有望なチャネルに投入するタイミングを判断できます。
業界標準とゴールドスタンダード
マルチタッチはシングルタッチをしのぐメリットがあるにもかかわらず、期待されるほど浸透していません。その理由の1つは、マルチタッチアトリビューションが業界標準になっておらず、エコシステム全体に特定の状況で特定のモデルを利用するという合意がないからでしょう。
次の表を見ると、もっとも先進的な市場である米国でさえ、MTAの導入率は2021年時点でまだ65%にとどまっています。さらに、前年比の増加率はごくわずかで、MTAの利用に対する意識が変わっていないことがうかがえます。
ラストタッチアトリビューションが支払いに関する業界標準であり、アトリビューション企業が媒体企業にクレジットを割り当てる仕組みになっています。コンバージョンに貢献した当事者への支払いを確定するのは基本的にアトリビューション企業です。
たとえば、多くのモバイルアプリでは、発生したインストールについて、ラストタッチアトリビューションモデルにもとづきアドネットワークに料金を支払っています。ユーザーがインストールする直前に接触したメディアソースには、そのユーザーを誘導した対価が全額が支払われます。しかし、マーケティングファネル全体のインサイトを得たいマーケターにとっては、社内でMTAを併用することが重要です。各タッチポイントの価値がわかれば、今後のクレジットの配分に役立ちます。
今すべきこと
コンバージョンの対価がラストタッチに応じて支払われるとしても、将来的によりスマートな意思決定ができるように、MTAで多面的に評価すべきです。
マルチタッチアトリビューションモデルの解説
MTAモデルには複数の種類があり、それぞれ独自のロジックを持ち、メリットやデメリットも異なります。
線形
線形モデルでは、ユーザージャーニーにおける各タッチポイントに均等にクレジットを適用します。線形モデルのメリットは、バイアスがかからず、ファネルの全体像を把握できる点です。
しかし、複数のタッチポイントの影響力に差があるかどうかを認識することはできません。たとえば、線形モデルでは、最初の有料のタッチポイント、2番目のオーガニック検索のタッチポイント、最後のダイレクトのタッチポイントには同等の価値があります。しかし、最初のタッチポイントがなければ、顧客はあなたの会社を知らないままだった可能性もあります。そうであれば、最初のタッチポイントの価値は最後のダイレクトのタッチポイントより重くなければなりません。
線形モデルはユーザージャーニーが単純化されることから、MTAのもっとも基本的な形とみなされています。
用途
線形モデルは、どのようなタッチポイントが存在するか把握したいけれども、各タッチポイントの影響力までは知る必要がない場合に利用するとよいでしょう。
時間減衰
時間減衰モデルでは、コンバージョンの時点に近いタッチポイントほど、影響力が大きいと考えます。そのため、クレジットには重み付けがなされ、最後のタッチの比重がもっとも大きくなります。
用途
時間減衰モデルは、ファネルの下層に戦略を集中させる企業に適しています。多くのマーケターが、販促キャンペーンなど検討の段階が短い場合このモデルを利用しています。
しかし、時間減衰モデルでは、タッチポイントの性質を分析しません。たとえば、キャンペーンでバナー広告とインフルエンサーによる動画を使ったとします。バナーがインフルエンサーによる動画の後に表示された場合、時間減衰モデルでは、バナーがより多くのクレジットを得ることになります。
意思決定プロセスにおいて、インフルエンサーが製品について語る動画よりもバナーに大きな影響力があったとは思えません。ただ動画の後に表示されたからという理由でバナーにより多くのクレジットを付加するのは、往々にして無理があります。
U型
U型モデルでは、最初と最後の2つの重要なタッチポイントを重視し、それぞれに40%のクレジットを配分します。残りの20%は、中間のタッチポイントに分散されます。
U型モデルは、カスタマージャーニーの起点と終点を把握したい場合に有効です。中間のタッチポイントも考慮され、低いながらもクレジットが付加されています。
このモデルは、すべてのタッチポイントに同じ価値があるわけではないことを認識できる点で優れていますが、クレジットを配分するアプローチとしては比較的シンプルです。
用途
U型モデルは、eコマースアプリで低価格商品を展開するなど販売サイクルが短い場合に適しています。多くのアプリマーケターが、ブランドを世に出したタッチポイントと、コンバージョンに直結したタッチポイントに大きな価値を置きたいと考えています。
W型
U型モデルをさらに一歩進めたものがW型モデルです。ここでは、最初のタッチポイントのほか、リードの創出や機会の創出のタッチポイントにもクレジットが付加されます。
W型モデルでは、メインのタッチポイントに30%ずつ配分し、残りの10%を中間のタッチポイント全体に配分します。
たとえば、見込み客がホリデーパッケージを検索しているとします。検索中に、さまざまな目的地に関連する広告が数多く表示されました。その中で、booking.comの広告をクリックします。地中海での休暇というアイデアに引かれて、モバイルウェブでさらに詳しい情報を検索しました。そしてサイトに登録し、旅行先をウィッシュリストに追加しました。これが「リードの創出」と見なされます。この時点ではまだ休暇の予約には至っていません。
数日後、「アプリをインストールしたユーザーに、キプロスでの休暇を10%割引で提供」というメールが届きます。メールに記載されたリンクをクリックすると、アプリストアが開きます。booking.comのアプリをダウンロードし、決済を完了させます。割引コードは、ディープリンク技術により自動的に入力されます。このメールは「機会の創出」とみなされます。
W型モデルでは段階の区別自体は明確ですが、ターゲットの行動を該当する段階に振り分けることが必ずしも簡単ではなく、計算が非常に複雑になる場合があります。
用途
W型モデルは、販売サイクルが長く、カスタマージャーニーの進展に多くのタッチポイントが必要になる場合に利用すべきでしょう。
フルパス
フルパスでは、最終的な販売/クロージングのタッチポイントを含め、上記のように4つの主要なタッチポイントにクレジットを付加します。4点にはそれぞれ22.5%のクレジットを割り当て、残りの10%を中間のタッチポイントに配分します。
フルパスでは、機会の段階の先からもインサイトを得られ、ファネルをより詳細に見ることができるため、営業チームにとって優れたオプションです。
用途
フルパスはW型モデルと同じように、販売サイクルが長く、顧客の検討の段階が長い製品(自動車のような高額商品など)を扱う企業に向いています。
カスタム
カスタムモデルでは、ビジネスニーズに合わせてバージョンを作成できます。カスタム以外の上記のモデルは、それぞれ想定するビジネスユースケースが異なるため、絶対的な優劣は存在しません。
カスタムモデルでは、ファネルの特定の段階に対してあるキャンペーンでは高いパーセンテージを割り当て、別のキャンペーンでは低めに割り当てるなど、微調整しながらハイブリッドモデルを作成できます。
カスタムアプローチによりマーケターは柔軟にきめ細かくコントロールできる一方で、設定が複雑になりメンテナンスが難しいという面もあります。
用途
カスタムモデルは、複雑なカスタマージャーニー全体をしっかりとカバーし、個別のビジネスに合わせて適用できます。たとえば旅行アプリのように、広範なタッチポイントの計測が必要にするアプリでは、カスタマイズ可能なモデルが有効です。
マルコフ連鎖
マルコフ連鎖は、確率過程論を発展させたロシアの数学者、アンドレイ・マルコフの名に由来します。
マルコフの理論では、起こりうる事象の順序が記述され、各事象の確率は前の事象の「状態」に依存します。
これがマルチタッチアトリビューションと何の関係があるのかというと、この理論を高度なMTAモデリングに適用することで、マーケターはより正確にユーザージャーニーをモデル化するフレームワークを構築できるのです。
マルコフ連鎖モデルとキャンペーンのデータを組み合わせることで、マーケターは見込み客があるタッチポイントから次のタッチポイントに遷移する確率を特定できます。
たとえば、顧客がLinkedInの広告を見て(最初のタッチポイント)、企業のウェブサイトを閲覧し(遷移)、その製品に関連する製品動画をクリック(2番目のタッチポイント)したとします。
顧客がタッチポイント間を遷移する回数から確率を算出します。連鎖が完成すると、成功にもっとも近い道筋やカスタマージャーニーにおける各状態の重要度を確認できます。
ビジネスに最適なモデルの選び方
マルチタッチアトリビューションに関しては、万能型のアプローチは存在しません。
最終的には、アプリとキャンペーンの具体的なKPIによって判断する必要があります。たとえば、アプリのダウンロード数を計測する場合は、時間減衰モデルが最適かもしれません。しかし、LTV(顧客生涯価値)を計測するのであれば、フルパスモデルなど、コンバージョン後のタッチポイントもカバーするモデルを選ぶべきでしょう。
モデルを選ぶ前に、KPIを決めて、最適なモデルを検討することが重要です。
さまざまなモデルをテストし、自社の戦略に近いかどうかを検証する必要もあります。あるモデルで必要なインサイトを得られなければ、別のモデルを試してみましょう。
最後に、さまざまなモデルでの結果を比較し、どこを最適化すれば改善できるかを確認します。
ホリスティックアトリビューション
さまざまなマルチタッチモデルによって、マーケターがより高度な方法でクレジットを配分できることを説明しました。しかし、真に全体的な視野で眺めるには、MTAをマーケティングミックスモデリング(MMM)と組み合わせる必要があります。
MMMは従来、予算のプランニングや戦略のために使用され、トップダウンアプローチでアトリビューションモデリングを行います。多くのデジタルアトリビューションモデルがユーザーレベルのリアルタイムデータ(または限りなくリアルタイムに近いデータ)を利用するのとは対照的に、MMMのインサイトは集約型で、四半期や年次の戦略的会話の一部として参照されます。
MMMでは、マーケティングや広告以外にも、マクロ経済情勢から季節性、さらには天候に至るまで、商業に影響を与えるさまざまな要因を考慮します。
たとえば、2020年にアプリのダウンロード数が33%増加しましたが、これはコロナウイルス感染症(COVID-19)のロックダウン対策と自宅待機が主な要因です。マーケターはパンデミックを計算に入れたMMMを外部の影響の評価や戦略のプランニングに活用できます。
MTAとMMMを併用することで、上述した俊敏がさらに高まります。MMMによる戦略的側面とMTAによる戦術的側面は、いわばコインの表と裏です。
たとえば、タクシー乗車アプリのプッシュ通知で10%の割引コードを送信する場合、暴風雨の日と猛暑の日では、どちらが受けが良いでしょうか。MTAを通じて得られたデータと外部要因に関するインサイトを組み合わせることで、マーケターはよりスマートな意思決定を行えます。
マルチタッチアトリビューションを実装するための5つのステップ
マルチタッチアトリビューション戦略の実装は、5つのステップにまとめられます。
1.KPIを決める
前述したように、KPIは戦略の指針となります。 ユーザー獲得が主な目的であれば、LTVやアンインストール率を計測する場合とは異なるモデルを選択できます。計測対象が明確になれば、ニーズに最適なアトリビューションモデルを導き出せます。
2.データをクリーニングする
現在、多くの組織がCRMシステムに顧客データを保存していますが、定期的にメンテナンスとクリーニングを行わないと、データが問題を引き起こす可能性があります。
データを徹底的に監査し、品質基準を満たしていることを確認しましょう。連絡先フィールドの欠落の修正、重複データの削除、データが正しいフィールドに入力されていることの確認、タイプミスや不正確な情報(役職名や会社名が古いままなど)の修正を行います。
データの不備は分析に穴を空け、誤った仮定を導き、最終的に予算の浪費につながります。
iOS 14の登場やその他のプライバシー対策により、データの品質とその保護対策はかつてないほど重要になっています。
実際、データ品質が世界的に収益アトリビューションの最大の障壁としてあげられており(43%)(英語記事)、アトリビューションプロセスの早い段階でデータをクリーンにすることが、長期的な成果をもたらします。
3.分析する
データを収集したら、各タッチポイントの役割を特定できる分析ソフトウェアでデータを分析します。そうすることで、インサイトの特定や、最適化が必要なアプリキャンペーンへの対処を行いやすくなります。
4.こまめに最適化する
メトリクスを継続的に確認し、パフォーマンスの低いチャネルがないか評価します。問題が見つかった場合は、キャンペーンを適宜調整しましょう。アトリビューションには、常にビジネス目標を反映させる必要があります。目標が変わったら、最適化、再編成、または別のアトリビューションモデルを試す必要もあるかもしれません。
5.モデル全体にインサイトを適用する
トレンドを特定し、データパターンを把握したら、これらのインサイトを今後のマーケティング活動に適用し、キャンペーンやチャネルのパフォーマンスを向上させます。
これは継続的なプロセスであることを忘れてはなりません。新たなインサイトを獲得したら、必ず適用して成果の向上を図りましょう。
マルチタッチアトリビューションの課題
メリットだらけのマルチタッチアトリビューションですが、課題がないわけではありません。そのいくつかを説明します。
業界標準がない
前述したように、ラストタッチには不十分な面があるにもかかわらず、料金システムとして業界標準となっています。
それは、マルチタッチが複雑で、エコシステム全体の複数の当事者から合意を得る必要があるからです。
たとえば、W型モデルを利用するとします。それには、3つの主要なタッチポイントにおいて、報酬がラストクリックに100%支払われるのではなく、それぞれに30%ずつ配分される仕組みへの合意が必要です。
すべてのパートナー、広告主、広告ネットワークが共通認識を持つべきであり、それには業界全体での連携が求められますが、有意義な形での実現には至っていません。
スキルが必要
マルチタッチモデルは実装も分析も簡単ではありません。
モデルを導入する能力や、モデルから得られるインサイトを収集する能力がすべての企業にあるわけではありません。実際、マルチタッチアトリビューションについて「十分に」理解していると考えている企業はわずか9%というデータ(英語ページ)もあります。
結果の検証が困難
一部のアトリビューションモデルでは、結論に達するまでの経路が多くのマーケターにとって謎のままであり、結果の検証が困難になっています。たとえば、アトリビューションモデルでは、マーケターがいくつかのアクションがオーガニックに起こることを知っていても、アクションが常にタッチポイントにクレジットされます。
マーケターはインクリメンタルテストを実施することで、特定のマーケティングキャンペーンに関連して発生したコンバージョンや単独で発生したコンバージョンを特定し、アトリビューションの結果をより明確に把握できます。
インクリメンタリティは新しい概念ではありませんが、実行と分析が複雑なためにほぼ見過ごされてきました。しかし、iOS 14の登場以降、データ主導のインサイトをサポートしギャップを埋めるためのツールとして、近年支持を集めています。
オフラインのメトリクスに限りがある
マルチタッチアトリビューションモデルでは、複数のチャネルとデバイスを組み込むことが前提となっています。これらには、理論的にはテレビ、ラジオ、印刷物などのオフラインチャネルも含まれます。
しかし、これらのチャンネルを特定するのは非常に難しく、関連データも著しく不足しています。このため、取得したデータをどのようにして選択したモデルに集約するかという課題が生じます。
完璧なものは存在しない
どのモデルも完璧なソリューションにはなりえません。
キャンペーンによって要件も目標も異なります。したがって、キャンペーンを開始する前に要件や目標を評価し、最適なモデルを適用することが重要です。
必要なインサイトが得られない場合はいつでもモデルを変更できることを覚えておきましょう。試行錯誤が必要な場合もあります。
プライバシーに関する変更
サードパーティのCookieの制限とAppleのIDFAモバイル広告識別子の廃止により、チャネルをまたいで顧客を特定することが難しくなるため、アトリビューションはより困難になります。代わりに、インクリメンタルテストのような手法による集約型のアトリビューションと計測が中心になっていくでしょう。
ファーストパーティデータも重要になります。たとえば、ユーザーをブランドのモバイルウェブに誘導し、そこからさらにブランドのモバイルアプリに誘導することを考えてみましょう(このようなシナリオでは、IDFAを収集する必要はありません)。
重要なポイント
マルチタッチアトリビューションにより、カスタマージャーニーにおける各タッチポイントの影響を分析し、もっとも高い価値をもたらす方法を特定できます。
自社のニーズに最適なモデルを把握するために、次のことを覚えておきましょう。
- 顧客がさまざまなチャネルやデバイスを行き来する現在のデジタル世界では、マルチタッチアトリビューションにより、マーケターはカスタマージャーニーをより正確に把握できます。
- より広いカスタマージャーニーにつながるタッチポイントを見つけたら、それがどのようなものでも前進は前進です。インサイトを引き出してマーケティングファネルに落とし込みましょう。
- キャンペーンのKPIを決めて、最適なモデルを判断しましょう。
- 完璧なモデルは存在しません。それぞれのモデルにメリットとデメリットがあり、どれが自分たちの目標に最適なのか判断するのは自分たち自身です。
- 業界標準の料金システムはラストタッチです。マルチタッチアトリビューションモデルを併用することで、マーケティング活動に関するインサイトを獲得し、今後の戦略の指針にすることができます。